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東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)52号 判決

原告

アヅミ株式会社

右代表者代表取締役

安積義夫

右訴訟代理人弁護士

上田裕康

石川正

宮崎誠

塚本宏明

元井信介

池田裕彦

被告

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衞門

右指定代理人

福田平

村田勝

中村和夫

鈴木好平

被告補助参加人

全大阪金属産業労働組合

右代表者執行委員長

小林康二

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が中労委昭和六一年(不再)第六〇号事件について昭和六二年三月一七日付で発した命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二主張

一  請求原因

1  大阪府地方労働委員会は、被告補助参加人(以下「補助参加人組合」という。)が原告を被申立人として申立てていた不当労働行為救済申立事件(地労委昭和六一年(不)第一一号事件)について、昭和六一年八月二〇日付で別紙(略)一記載のとおりの救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。

原告は、昭和六一年八月二一日初審命令を不服として被告に対し再審査の申立をしたところ、被告は昭和六二年三月一七日付で別紙二記載のとおり再審査申立を棄却し、初審命令を維持する旨の命令(中労委昭和六一年(不再)第六〇号事件命令、以下「本件命令」という。)を発し、同命令書は同年四月一六日原告に交付された。

2  しかし、本件命令は事実認定及び法律判断に誤りがあり取消しを免れないものである。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実は全部認める。

三  抗弁

本件命令の理由は別紙二記載のとおりであり、その事実認定及び判断に誤りはなく、本件命令に違法はない。

四  抗弁に対する認否

本件命令が引用した初審命令の理由「第一認定した事実」の「2本件団体交渉拒否に至る経緯」(1)の事実中、板垣利男、待野洋二らがアヅミ労働組合を脱退したとの点は否認する。板垣らは右組合を除名されたものであり、有効に脱退したものではない。また待野は昭和五九年一二月に非組合員となっており、脱退時であるとされる昭和六〇年一〇月二一日当時アヅミ労働組合の組合員ではなかったから組合からの脱退ということはあり得ない。

五  原告の主張

1(一)  原告には原告に勤務する大多数の従業員で組織するアヅミ労働組合が存在しており、昭和五九年八月までは待野が執行委員長を、板垣が副執行委員長を務めていたが、その運動方針について組合員の支持を失い、同年九月に脇坂利正が執行委員長に選出された。

(二)  原告は、昭和六〇年一月一六日板垣に対し浜松営業所への転勤を命じたが、板垣がこれを拒否したため当時同人が所属していたアヅミ労働組合と協議の上、右命令を留保し、大阪本社における営業研修を命じたが、板垣は右命令を不当労働行為であるとして拒否し、アヅミ労働組合に対し自己の立場を支持するよう求めたところ、同組合が板垣の行為は正当でないとしてこれを支援しなかったため、同組合に対し敵意を持ち、外部勢力の指導の下に同組合を批判し、同組合の分裂を画策し、さらに右配置転換拒否に対する処分を免れ自己の地位を保全するため同年一〇月二一日藤島繁ら一〇名と共に同組合に脱退届を提出した。

(三)  しかし、以上のように板垣らの言動は組合を破壊する目的をもってなされたものであったため、アヅミ労働組合では板垣らの行為を統制秩序違反行為と考え、前記脱退を認めずに昭和六〇年一〇月三一日所定の手続を経た上板垣ら一一名を除名し、同年一一月六日付で原告に対し、原告との間で締結されていた労働協約中のユニオンショップ条項に基づき板垣ら被除名者の解雇を要求するに至ったが、一一名もの従業員を一時に解雇することは原告の業務運営上多大の支障を生じさせるおそれが強かったため原告において解雇を留保するうち、板垣らは補助参加人組合に加入し、同組合アヅミ分会(以下「分会」という。)を結成したうえ、原告に対し団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)を申入れるに至ったものである。

(四)  しかしながら、原告は、前記ユニオンショップ条項及び前記協約中の唯一交渉団体約款(原告はアヅミ労働組合が原告の従業員を代表する唯一の労働組合であることを認め、労使交渉は右組合とのみ行うことを約した条項)に基づきアヅミ労働組合の団結権を擁護すべき義務を負担しており、また前記の事実から明らかなように、分会はアヅミ労働組合に対する分派活動を理由として除名された者らによって構成された違法な集団であり、アヅミ労働組合も原告に対しこのことを理由として補助参加人組合及び分会との団体交渉を行わないよう強く求めていたため、原告が補助参加人組合等と団体交渉を行った場合、ユニオンショップ条項を基礎としてアヅミ労働組合との間に長年に亘って築き上げられた信頼関係を破壊し、右組合の団体交渉権を侵害することになり、不当労働行為の責を負わなければならないことになる。したがって原告が補助参加人組合及び分会との本件団体交渉を拒否したことには正当な理由があり、これを不当労働行為であるとする本件命令は違法である。

2  本件命令は、初審命令主文第二項(原告が補助参加人組合及び分会からの昭和六一年三月一三日付の団体交渉の申入れに応じなかったことが大阪府地方労働委員会において不当労働行為と認められたので今後かかる行為を繰返さないようにする旨の文書を原告において補助参加人組合に手交するよう命じたもの)を維持しているが、仮に原告の団体交渉拒否の正当理由が否定される場合があるとしても、原告が、本件団体交渉の申入れを拒否せざるをえなかったことについては、1に述べたとおりやむをえない理由があり、原告に対して右文書の手交を命じることは、裁量権の範囲を逸脱した違法がある。したがって、本件命令中初審命令主文第二項を維持した部分は違法である。

六  原告の主張に対する被告の認否

原告の主張はすべて争う。

七  原告の主張に対する補助参加人の反論

補助参加人組合は労働組合法所定の要件を充たす労働組合であり、原告が右組合の団体交渉申入を拒否することは同法七条二号に違反するものである。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、補助参加人組合アヅミ分会に加入している板垣らはアヅミ労働組合を除名されたものであり、かかる者が加入している補助参加人組合及び分会と団体交渉を行うことはアヅミ労働組合との間に締結したユニオンショップ条項及び唯一交渉団体約款に違反し、同組合の団結権、団体交渉権を侵害することになるため団体交渉を拒否したものである旨主張する。

しかしながら、複数の労働組合が存する場合、一方組合との間に締結されたユニオンショップ協定及び唯一交渉団体約款が存することを理由として他方組合との団体交渉を拒否することは、特段の事由がない限り当該労働組合の団体交渉権を否定することになるから許されないものである。よって右特段の事由の存否について検討する。

本件命令の引用する初審命令の理由「第一認定した事実」のうち、板垣らの加入する補助参加人組合及び分会が昭和六一年三月一三日原告に対し、有給休暇は皆勤手当のカットの対象外とすること等八項目について本件団体交渉を申入れ、その後も引続き団体交渉を申入れていること、しかし原告は右団体交渉を拒否していること、以上の事実は原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

(証拠略)によれば、原告には、原告に勤務する大多数の従業員で組織するアヅミ労働組合が存在しており、昭和五九年八月までは待野が執行委員長を、板垣が副執行委員長を務め、原告に対しいわゆる強硬路線をとっていたが、昭和五九年九月に脇坂が執行委員長となりいわゆる労使協調路線をとるようになったこと、原告は昭和六〇年一月一六日板垣に対し浜松営業所への転勤を命じ、板垣がこれを拒否したためアヅミ労働組合と協議の上、右命令を留保し、大阪本社における営業研修を命じたが、板垣が右命令は不当労働行為であるとしてこれを拒否し右組合に自己の立場を支持するよう求めたところ、右組合は板垣が営業研修を拒否したことは個人の我儘から出たものにすぎないとして板垣の要請を拒否したこと、板垣は原告の転勤命令を拒否し結局退職するに至った同僚吉原篤に対するアヅミ労働組合の支援態度にかねてより不満を抱いていたが、さらに自己に対する右組合の態度に不信の念を強め、右組合の活動は十分でなく原告との馴合の下に行われている旨非難するなどしていたが同年一〇月一日には板垣を支援するグループから組合に対し板垣の配置転換問題等について公開質問状が出されたりしたこと、板垣らは右のようにアヅミ労働組合の活動に不満を持ちこれを批判していたが同月二一日板垣ら一一名は同組合に脱退届を提出し、同人ら及び待野は全アヅミ労働組合を結成しその旨会社に通知したこと、これに対し、アヅミ労働組合は板垣らが外部の者と連絡をとり組合の分裂を画したものとして同人らの脱退届を受理せず、規約違反を理由として同月三一日板垣ら一一名を除名処分にしたこと、そしてアヅミ労働組合は、同年一一月六日原告に対し、板垣ら一一名に対する除名を理由として、原告との間に締結された労働協約のユニオンショップ条項に基づき板垣らの解雇を要求したこと、しかし原告は一一名の従業員を一時に解雇することは業務に支障を生ずること等を理由としてこれを留保するうち、昭和六一年三月一三日に至ってアヅミ労働組合に復帰した中邑義信を除く板垣、待野ら一一名は補助参加人組合に加入し、直ちに分会を結成し、その旨を原告に通知し、同時に組合の諸要求を実現するため団体交渉を開くよう申入れ、さらに同月一九日にも団体交渉の開催を申入れていること、他方板垣の離脱当時からアヅミ労働組合は板垣らが組織ないし加入する労働組合と原告が団体交渉を持つことに強く反対し、もし原告が補助参加人組合及び分会と団体交渉を行った場合アヅミ労働組合は原告に対ししかるべき対抗手段を講ずる旨表明していたこと、以上の事実が認められる。(証拠略)中右認定に反する部分は措信しない。

しかして、右各事実によれば、それが脱退によるものであるか除名によるものであるかはともかくとして、板垣らはアヅミ労働組合から離脱し、離脱後直ちに全アヅミ労働組合を結成し、次いで昭和六一年三月一三日補助参加人組合に加入し同時に分会を結成しているのであり、本件全証拠によるも右組合が正当な労働組合であることを否定することはできないし、また板垣及び待野らによる全アヅミ労働組合の結成、補助参加人組合への加入及び分会の結成は、板垣らと労使協調路線をとるアヅミ労働組合との組合活動に対する立場の相違を原因としてなされたものであって、板垣自身の配置転換問題に対する右組合の対処方法に対する不満がその一因をなすものとはいえ不当な動機ないし目的の下になされたものとはいい難いから、仮に板垣らの前記離脱が有効な除名に基づくものであったとしても、またアヅミ労働組合が原告と補助参加人組合らとの団体交渉に強く反対し、原告が敢て右団体交渉を行った場合に原告とアヅミ労働組合との間に築かれた信頼関係が崩壊する危険があったとしても、右事実が本件団体交渉を拒否しうるに足る特段の事由に該るとは到底いい難い。したがって、補助参加人組合はその組合員である板垣らのために原告に対し団体交渉権を有しかつこれを行使しうるものであり、原告がアヅミ労働組合との間にユニオンショップ条項及び唯一交渉団体約款があること等その主張にかかる事由を理由として補助参加人組合及び分会との団体交渉を拒否することは許されない。

よって原告が本件団体交渉を拒否したことは労働組合法七条二号所定の不当労働行為に該当することになり、この点に関する原告の主張は失当であって、本件命令には原告主張のような違法はない。

三  原告は、原告が補助参加人組合からの本件団体交渉の申入れを拒否したことについてはやむを得ない理由があり、本件命令が維持した初審命令主文第二項は裁量権の範囲を逸脱したものである旨主張する。

前記認定のように使用者の行為が不当労働行為に該当する場合にいかなる救済方法を講ずるかは労働委員会の裁量に属すべきものであるから、被告が本件命令によって維持した初審命令主文第二項が右の裁量権を逸脱したものであるか否かについて検討する。

前記認定事実殊に板垣らの離脱当時からアヅミ労働組合が板垣らの組織ないし加入する労働組合と原告が団体交渉を持つことに強く反対し、原告が補助参加人組合及び分会と団体交渉を行った場合アヅミ労働組合は原告に対し然るべき対抗手段を講ずる旨表明していた事実並びに原告とアヅミ労働組合との間に唯一交渉団体約款等が存在していた事実に徴し、かつ板垣らがアヅミ労働組合から除名されたものであったと仮定した場合、原告が補助参加人組合らと団体交渉を行うことについては事実上相当の困難ないし制約が存したことは否定し難いところである。しかしながら、板垣らのアヅミ労働組合からの離脱、補助参加人組合への加入等が前記のように不当な動機ないし目的からなされたものではなく、補助参加人組合が原告に対し団体交渉権を有すること前記のとおりである以上、原告主張にかかる前記事由の存在することを理由として本件団体交渉を拒否したことにつきやむを得ない事由が存したとすること、したがって、初審命令主文第二項において命ずる事項が裁量権の範囲を逸脱したものということはできない。他に原告の主張を認めるに足る事実は存しないから、この点に関する原告の主張も理由がない。

四  以上の次第で本件命令には原告が主張するような違法はなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福井厚士)

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